アルルでのゴッホの生活は,依然として,人びとの嘲けりや無理解にしばしば囲まれはしたが,仕事のあいまにくつろぐ夜のカフェなどで,彼はしだいに親しい友人を得ていった。 この「金の飾りのついた青い制服を身につけ,ひげをはやして,まるでソクラテスのようにみえる郵便配達夫」のルーランは,なかでももっとも親しく永続的な友情さえ生みだした。 ある批評家は,あの膨大な書簡集の筆者が郵便配達と親しくなったというのは,興味あるめぐりあいだと書いている。ゴッホはルーランに「父というほどではないとしても」,その威厳のある沈黙に尊敬さえ感じていたらしい。この堂々たる肖像画に、そうしたゴッホの感情が十分に見いだされるようである。青の強烈さ,画面いっぱいの構図,あらゆる点で,アルル時代の肖像の頂点をなす作品の一つだろう