本文へスキップ

世界の名画解説「ヤン・ファン・エイク」。





これは絵です。





「ティッセンの受胎告知」 1437年頃 油彩 板
各 39x24cm

 ファン・エイクの絵を見ていると、彼が生きた中世ヨーロッパに紛れ込んだような気分になります。そこには、日を見張るような細工が施された調度品があり、肌ざわりのよい上質な衣装をまとった人物がたたずんでいる。鏡や鎧は、周囲の風景を映し出し、庭の噴水は清らかな水音を響かせている。こうした驚異的な細密描写とたくみな質感表現によって、私たちは視覚をとおして、触覚、聴覚まで刺激され、画面のなかの世界を体感することになるのです。
 さらに、ファン・エイクは、主題を取り巻く背景にちょっとした「仕掛け」をすることにより、私たちの視線を画面の奥へと引き込むように仕向けています。主題からふと目をそらすと、そこには威嚇するようにこちらをにらみつける猫がいたり、背中を向けてなにかを見ている人がいたりする。あるいは、主題の向こうに広がる美しい風景に、自然と目が向かうような構図がとられている。
 それらのものに目を奪われた瞬間に、私たちは、「絵画」と 「現実」の境界を越え、画面のなかに入り込んでいるのです。一見、きまじめで堅苦しく思えるファン・エイクの絵には、画家のいたずら「遊び心」や「悪戯」がちりばめられています。それらの 「仕掛け」が、質感表現を伴う細密描写により、このうえなく本物のように見えるからこそ、私たちはファン・エイクの絵を体験できるのでしょう。向こう側にあると思った世界に、いつの問にか自分が入り込んでいる。それがファン・エイクの絵の醍醐味なのです。





「アルノルフィーニ夫妻の肖像」 1432年 油彩 板 82.2x60cm





このページの先頭へ