手前から奥に向かって長くのびるテーブルには十二使徒と、彼らにパンを与えるキリストがいる。
やや暗い部屋の中で、灯火とキリストの光輪から放たれる光がまぶしく輝き、この場を祝福する天使たちの姿が浮かび上がる。
ティントレソトの作品には、このように極端な遠近法を使って、吸い込まれるような奥行き感を演出するものが多い。
ティントレットは、染物師の息子として生まれた。ティツィアーノの工房を5日で追い出されたという言い伝えもあるが、これは後世に生まれた伝説だろう。彼が描く芝居の役者のような激しい身ぶりの人物像や、奥行きの深い神秘感を漂わせる情景、やや暗い画面からにじみでるような宗教的感情が19世紀になって再評価されるようになり、社会と相いれない「苦悩する芸術家」というイメージが生まれたからだ。
実際には、彫刻デッサンを用いた弟子の教育や、暗色の下地を採用して制作期間の短縮を図るなど、大工房経営者としての手腕にも優れた画家だった。
そして、彼もまたヴュロネーゼ同様の「大画面画家」である。聖マルコ同信会館をはじめとして、数多くの壁画制作をこなし、ライバルのヴュロネーゼの死後には、パラツツオ・ドゥカーレの大評議会広間に横
22メートルにも及ぶ『天国』(1588年)を完成させた。この『最後の晩餐』は彼の最晩年の作品である。
1594年、75歳でヴェネツィアで亡くなった。
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