1804年12月2日にノートルダム大聖堂で戴冠したフランス皇帝ナポレオン・ボナパルト。
ナポレオンは妻ジョゼフェーヌに今までのどのフランス国王のものより自分の戴冠式が長時間にわたるものになると約束した。
ナポレオンは白テンの毛皮の裏地をつけた白い絹と深紅のビロードに身を包み、そこにはNという文字の周囲にオリーブと月桂樹と樫の小枝の刺繍が施されていた。
フランス全土から大聖堂に集まった八千人の参列者が見守る中、ローマ教皇は祝福と王冠を与えた。
ナポレオンはこの儀式の最中に弟のジョゼフのほうに身をかがめ、小声で「親父に見せてやりたかったな」と言った。
コルシカの反逆者からフランス皇帝の地位にまで上り詰めたのであるから、ナポレオンがそう言うのも無理もない話しである。
ナポレオン、35歳の若さであった。
この頃のアングルは超一流の画家として、その絶頂期にあった。
豪華絢爛極まりない戴冠式の主役ナポレオンをこれほど見事に描ききれるのはアングルを於いて他にいないであろう。
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