1910年にパリに移住したシャガールは、当時最先端の芸術にふれる。上空の面の構成や窓枠の色彩は、都市のきらめく光のスペクトルを直接写し取ったかのようだ。 本作の様式には、キュビスムに華麗な色彩を導入した画家、ロベール・ドローネー(1885〜1941)の影響がみられる。窓の外を眺める人物は、古代ローマの神ヤヌスのように2つの顔をもち、窓際の猫も、古代エジプトのスフィンクスの顔のように措かれる。 パリは、シャガールにとって2つの顔をもつ都市として見えたのであろう。ひとつは、近代文化の坩堝である「現実」の都として。もうひとつは、想像を絶する「神話」めいた狂騒が繰り広げられる、夢の都として。