西洋絵画美術館
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「首吊りの家」

ポール・セザンヌ  1872年 油彩 カンヴァス 50x66cm 
パリ オルセー美術館


Paul Cezanne
 
 
 
  これは,印象主義の画家としてのセザンヌの最初の年の傑作である。
画面全体が,以前の作品に比べて,ずっと生き生きと明るく輝いており色彩豊かである。筆触は小さくしかも多様になるが,しかし厚いざらざらした塗りは,彼の以前のやりかたに似ている。
これは,よく研究された絵で,友人の印象主義の画家たちの作品よりも入念に構成された絵である。光に注意深いにもかかわらず,セザンヌは物体にも観察の目を向け,漆喰の石壁,岩地や表面を覆う草,木の裸の枝,空の実感,遠くの風景の物質性をよくとらえることができた。ここから,セザンヌが後年の作品において克服するのではあるが,絵具の肌の多様性が生まれ,そして,やがて対照性のより幅広い効果に置き換えられるとはいえ,諸部分に対するつぼをはずさぬ関心とそれらの個々の複雑さが生まれてくる。
 繊細であるとともに,この絵は,力強いイメージであり,彼の先生であるピサロのどの作品よりも印象的である。これは中間調の豊かな色彩の厳粛さに負うばかりではなく,とりわけこの情景の構想とその強い構図に負うていると思われる。これは,絵画の方法は詩的で田園的なものと光の美学に属しているけれども,この人里の興味をそそる小説的なヴィジョンである。同じような構造の家と岩の対称性,それらの際だった対立,さまざまな方向に急傾斜する不安定な地面,複雑に入り組んだ風景の奥行き,家と岩の間の狭い間隙を通して見える遠景と地平線の眺め−これらには心の昂揚が感じられ,印象主義の芸術にみられる穏やかで形の定かでない開いた空廟とは,きわめて異なっていて,葛藤と疑いのニュアンスを帯びた空間を創り出している。この絵の題名−「首つりの家」−は,この構想がこの家にまつわる物語に対するセザンヌの反応に関わりをもっているのではないかと想像させるが,しかし確かではない。けれどもありそうなことは,彼がこの印象主義的な段階でも,自然を鋭く切りとり,激しい対照と空間の複雑な連続性によって表現するという彼の初期の感覚をとどめているということである。木の枝組みが交錯する建物をクローズアップするという好みは,ピサロの影響である。
 印象主義の画家としてセザンヌは,構成に対する才能を保持し,かつ発展させた。色彩と光線において構想されたこの絵画は,また線と方向性の美しさをもっている。対象の緑の線をたどってゆくと,絶えず変化する色調のそばに,多くの精妙な対応関係をもつ驚くべく濃密な綱目を見いだすことになる。斜線的な諸要素に注目しただけでも,彼がいかに巧みに下の路の線と建物と枝々と岩とを結び付けているかがわかる。
 
 
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