レオナルド・ダ・ヴィンチ (イタリア 1452〜1519)「岩窟の聖母」1490年 油彩 カンヴァス 197x119.5cm パリ ルーブル美術館

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レオナルド・ダ・ヴィンチ 岩窟の聖母



二つの『岩窟の聖母』

この絵の依頼から完成までの経緯は,決して平坦なものではなかった。ミラノのサン・フランチェスコ聖堂に属する無原罪懐胎同信会は,聖母と諸聖人を表す祭壇画を翌年の無原罪懐胎の祝日までに完成するようレオナルドに注文した。
1490年,この絵はいまだ未完成であったが,同信会はそれを買いとった上でレオナルドに仕上げさせ,さらに1506年に彼がフィレンツェからミラノに戻ってきた際,この祭壇画の改作を委嘱した。
このルーヴル美術館の作品は最初に描かれたものだが,それはフランス国王に売却されてしまい,もうひとつの改作(現在,ロンドン国立絵画館蔵)が同信金の祭壇画として置きかえられた。
レオナルドは何らかの理由で,依頼された主題を,以前から彼がフィレンツェで構想していたものに変更した。
本作品では幼児のキリストとヨハネが描かれているが,洗礼前にキリストとヨハネが出合うという記述は,聖書には見あたらない。唯一,外典で,エジプト滞在後2人が片田舎で出会ったとされている。舞台を洞窟に設定したことによって,レオナルドは岩石の構造や植物を科学的に観察して描く機会を得,これらを非地上的な美しさをたたえた理想的な聖人たちと結びつけている。
パリの作品は現在かなり暗化しているため,レオナルドの有名な薄暮の光が誇張されているが,場面は空に向かって開かれており,元来はロンドンの作品より明るかった。
一方,ロンドンの作品では,岩窟が画面をおおい尽くし,人物にいっそう強い明暗を与えている。
レオナルドはロンドンの改作において重要な変更を行なっている。ロンドンの作品では,天使は洗礼者聖ヨハネを指さすことなく,ただ彼を見つめている。レオナルドは人物像のポーズに関してアルベルティから学んだらしい。アルベルティは観者の視線を導く身振りの効果について言及している。こうした教えはキリストの頭上にかざされた聖母の手の配置や,聖ヨハネを祝福するキリストのポーズに生かされている。



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